まだこの放送のお仕事を始める前に、何回かは競馬場の下見所、パドックに行ったことはありますが、パドックはいつも混んでいて、なかなか馬が見えません。ましてやG1レースともなるとよほど前から待っていないと、前のほうで馬を見ることができません。人混みをかきわけながら馬を見ると、どの馬もみんなピッカピッカでとてもきれい。そして「わあ、大きいな。馬ってすごいな」っていつでもそう思いました。このお仕事を始めるようになってからは報道員用のパスをもらったので、パドックの報道専用の場所に行きました。手を出せば馬が舐めてくれそうな至近距離です。私がそのパスで恐る恐る東京競馬場のパドックの前のほうに行ったのは、番組が始まって1カ月位たった平成6年の5月29日、第61回日本ダービーの日。ダービーは1万頭以上の4歳馬から選びぬかれたたった18頭しか出場できません。昔、イギリスのチャーチル首相が「一国のあるじになるよりダービージョッキーになるほうが難しい」と言ったとか。
ダービーに日は晴れ、良馬場。精鋭の18頭が厩務員さんや調教助手さんに引かれながらパドックを静かに回っています。どの馬も背中に光が映えて輝いていました。この時、私は1頭の馬と目が合いました。まんまるく、なんと澄んだきれいな目をしているのだろう。私は思わず感動で涙ぐみそうになりました。その馬の名は、私が第1回目の放送で「皐月賞に勝ち三冠馬になれるのはこの馬」と言ったナリタブライアンです。そしてナリタブライアンは私に「僕はきょう絶対に勝つよ」と言って、微笑んでいるように見えました。そして本馬場では他馬をよせつけず、5馬身もぶっちぎって勝ってしまったのでした。私は放送中またまた感動して声で出ませんでした(パドックで勝つよってウインクしてくれる馬がいたらいいんですけど)。
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