仕事が少しずつでも増えれば、新たな人との出会いも増えていきます。私は父の影響かお酒が大好きで、毎日芝居がはねると必ず誰かと飲みに行ってましたが、お酒を飲むと、元々早口なのに、ますます早口になり、よく笑うし、大声になってしまうし、しかもいくら飲んでもめったに酔わないのです。これがあまり女らしくないところなのか、いまだに一人身。誰ですか、飲む、打つじゃもらい手なんかいない、なんて言っている人。
舞台の仲間も飲助が多く、芝居のあとは反省会と称して、一杯飲むのが日課になってしまっているんです、このギョーカイ。なかには一滴も飲めないという人もいます。ある日そんなFさんに連れて行かれたところで、あるテレビ局のプロデューサーに会いました。私が今あるのは、引き合わせてくれたお酒を一滴も飲めないFさんと、競馬を全然やらないこのプロデューサーのお陰かもしれません。人と人の出会い、運というのはどこでどうなるかわからないですね。このお酒の席で、私は思い切ってプロデューサーに仕事をお願いしたのでした。どうしてもテレビ朝日の土曜ワイド劇場「西村京太郎シリーズ」、すなわち愛川欽也さん主演のドラマに出演したいと……。朝ちゃんの本領発揮で~す。
そしてそれから待つこと3カ月。ようやく愛川さんとご一緒できたのです。4年前の平成5年の4月のことです。でもこのときは、競馬の仕事をやってみたいという考えは薄れていました。もしくは諦めかけていたのかもしれません。
さて初めて出演した愛川さんのトラベルミステリーシリーズのロケのときの出来事です。地方のロケのときは、出演者やスタッフでお酒を飲み、カラオケを歌い、大騒ぎになる日があるんです。だって地方へ皆で行って、それも朝早くから夜遅くまでロケにかかりきりとなるとどこかで気を抜きたいときがあるんです。とかなんとか言って結局毎日飲んでいますけどね。そんなカラオケの席でのこと、競馬好きのスタッフと、いつの間にか競馬談義になりました。
「今度の日本ダービーでは、ウイニングチケットが勝って、柴田政人(現調教師)は初めてダービージョッキーになれるかな。いややっぱり、勝つのはビワハヤヒデだと思うけど、どうだい?」
いろんな意見が続出し、じゃあ、みんなでやろうということになりました。そこへカラオケのマイクを握ったら離さないはずの愛川さんがニコニコ顔で現れました。
「面白そうだね、ぼくも仲間に入れてよ」
愛川さんと話すいい機会とばかりに私はまた売り込みました。
「私の競馬の予想は誰よりもよく当たります。ぜひ愛川さんの馬券は私に買わせてください」
「そう、君の予想はそんなによく当たるのかい。じゃあぼくの馬券代として1万円預けるから、きみの好きなように買っておいで。もし、今度のダービーまでにこのお金がなくなっても気にしなくていいからね。この1万円がなくなったら事務所に連絡して。そう言っておくからね」
もう夜中の12時を過ぎていました。早朝5時起きで、一日主役をつとめて、まだカラオケのマイクを離さない愛川さんの元気の源はどこにあるのだろうと、不思議に思うとともに本当に感心してしまいました。そして初めてお会いした愛川さんからいきなり競馬のお金を預かることになろうとは……。しかしこの1万円はその年の暮れには8万円に増えることになるのです。「どうせすぐにもうありませんと言ってくるだろうけど、あんなに一生懸命言ってたのだから、ひとりくらい信じてあげようと、朝ちゃんに乗っただけだよ」とはのちの愛川さんの言葉。これがやがて毎週日曜日朝10時から午後6時まで放送された超生ワイド番組『サンデー・スーパー・キンキン』の中の「朝ちゃんに乗りたい」のコーナーになったのです。
あのとき飲んだ勢いとはいえ、気の小さい私によくもあんなことが言えたものだとわれながら感心しています(どこが気が小さいんだって? いいから、いいから気にしない)
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